【医業経営コラム】続・認定医療法人制度とは?活用すべき理由と節税対策効果

前回の記事では、認定医療法人制度の基本的な仕組みや制度概要について解説しました。
前回の記事はこちら )
今回はもう一歩踏み込み、実際に制度を活用すべきケースや節税効果について解説していきます。
認定医療法人制度は、相続税や贈与税を大幅に軽減できる非常に有効な制度です。
しかし現実には、全国の約6割がいまだに「持分あり医療法人」のままという状況が続いています。
「なぜ制度が普及しないのか?」
「自分の法人でも使えるのか?」
「実際どれくらいの節税になるのか?」
このような疑問をお持ちの方に向けて、制度活用の実情とポイントをわかりやすく解説します。

1. なぜ認定医療法人制度が普及しないのか

厚生労働省は持分なし医療法人への移行を推進していますが、現実には制度がなかなか進んでいません。
2025年現在でも、全国の約6割が持分あり法人といわれています。
ここでは、その背景を整理してみましょう。
認定医療法人制度を活用するには、厚労省への認定申請や、都道府県への定款変更許可申請など、複雑な手続きが多数必要です。
さらに、認定後も6年間にわたる維持義務が課されます。
この間に基準を満たせなくなると、過去に免除された贈与税が一括課税されるペナルティがあります。
「もし要件を満たせなくなったらどうしよう…」
という不安が、制度活用への大きなブレーキになっています。
認定医療法人制度は、長期的な相続税対策や承継対策が目的です。
そのため、直近で問題が顕在化していないと優先度が低くなりがちです。
• 払戻請求が現実に発生していない
• 相続が当面発生する予定がない
• 贈与税も今すぐ発生していない
こうした状況では「まだ先でいいか」という判断になり、制度活用が後回しになってしまいます。
制度自体が専門的で、かつ医療法人特有の知識も必要なため、対応できる専門家が少ないのが実情です。
• 医療法人に詳しい税理士が少ない
• 行政書士・都道府県担当者でも経験不足
• 金融機関も制度に精通していない
結果として「誰に相談すればいいのか分からない」という状況に陥り、制度が活用されにくくなっています。

2. 認定医療法人制度を活用すべき法人とは?

認定医療法人制度は理論上、持ち分ありの医療法人であればすべての医療法人で活用可能です。第三者承継やM&A、事業承継を前提としていない場合でも使える制度です。
しかし実務上のメリットが最も大きいのは親子間承継の場合です。
親族間承継では、出資持分を無償で引き継ぐ場面が多く、その際に贈与税や相続税が課税されることが最大の課題です。
• 贈与による承継 → 贈与税が発生
• 相続による承継 → 相続税が発生
認定医療法人制度を活用すれば、これらの税負担がゼロになり、スムーズな承継が可能となります。
特に純資産が大きい法人ほど節税効果は絶大です。
一方、第三者承継やM&Aでは制度活用の必要性が低くなります。
■ 経済的整理は制度がなくても可能
第三者承継では通常、以下の形で経営者が資金を回収します。
• 出資持分を売却して承継対価を受け取る
• 退職金を受け取る
つまり、贈与や相続を考慮することなく、売却や退職金で経済的整理が完結させることが出来るため、認定医療法人制度を使う意義が小さいのです。

■ 「持分あり」の希少価値
現在は制度上、新たに「持分あり医療法人」を設立できません。
そのため、既存の持分あり法人は年々減少し、希少価値が高まっています
第三者承継では、買い手側にとって
• 出資持分という経済的権利を持てる
• 将来その持分を売却して資金回収できる
• 経営上の自由度が高い
といったメリットがあり、現行の制度上では設立出来なくなった持分あり法人を欲しがるケースが多いのです。
結果として、第三者承継では持分あり法人の方が高値で取引される傾向があります。

■ 認定医療法人化はむしろ不利に働く
もし第三者承継を前提に認定医療法人に移行すると、
• 出資持分が消滅してしまう
• 経済的権利がなくなる
• 希少価値をアピールできなくなる
といったデメリットが生じます。
つまり、第三者承継では認定医療法人制度を使わない方が有利なケースが多いというのが実務上の実態です。
• 親子間承継では、無償で引き継ぐ際に発生する税負担をゼロにできる
• 第三者承継では売却で整理できるため、制度を使う意義が小さい
• さらに「持分あり」は希少性が高く、むしろそのまま維持する方が有利
したがって、認定医療法人制度は親子間承継を前提に活用すべき制度といえます。

3. 認定医療法人制度の節税効果(事例)

ここで実際の数字を使って節税効果をイメージしてみましょう。
(※相続税率に関しては、他の個人資産との兼ね合いもある為、わかりやすいように50%で算定しております。)

【事例】純資産2億円、出資割合100%の場合
経営者が持分100%を保有しており、子どもへ承継するケースを想定します。
• 認定を活用しない場合
2億円がそのまま相続財産として課税対象
→ 相続税率50%なら1億円の税金が発生

認定を活用した場合(認定時点のみ)
• 認定時点での贈与税・相続税がゼロ
• 払戻請求リスクもゼロ
この時点で1億円の節税効果が生まれます。

認定後の純資産増加も非課税
さらに重要なのは、認定取得後に増えた純資産も非課税で承継できるという点です。
例えば、
• 認定取得時:純資産2億円
• その後の成長により純資産が3億円に増加
この場合、最初の2億円だけでなく、増加した1億円分も課税対象外になります。
つまり、認定を早く取得すればするほど、将来増えるであろう純資産も含めて非課税で次世代に承継できるのです。この仕組みを利用して、個人財産が十分にある先生の場合は、役員報酬を抑えることで、相続財産の調整を行うことも可能となります。
この「継続的なタックスメリット」が認定医療法人制度の大きな魅力であり、 制度を早めに検討する理由にもなります。

4. まとめ:親子間承継は「待ったなし」

認定医療法人制度は、相続税・贈与税をゼロにし、
払戻請求リスクをなくす非常に強力な制度です。
ただし、制度活用には事前準備と長期的な運営体制が不可欠です。
特に認定医療法人制度を検討している法人は、制度が利用できる期限(現行では2026年12月31日まで、延長案あり)に注意が必要です。
当法人では、制度活用に向けた事前診断から手続き、移行後6年間のサポートまで一貫対応しています。
「うちの場合は使えるのか?」といった初期段階のご相談も歓迎しておりますので、お気軽にお問い合わせください。
この記事を監修した人
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【著者プロフィール】
呉 泰成(公認会計士・税理士・行政書士)|税理士法人Luca 代表社員

大手監査法人および医療専門会計事務所での経験を経て、2021年におうかん会計事務所を設立し、医療に特化した税務会計顧問、医療法人化業務、事業計画策定支援等のサービスを提供。2023年10月には税理士法人Lucaを設立。監査法人時代には、大手金融機関中心とした監査業務に従事し、IFRS監査、内部統制監査、アドバイザリー業務などにも携わる。医療専門の会計事務所では、開業医を中心に税務顧問業務、医療法人設立業務、M&A等を手掛ける。
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