【医業経営コラム】医療法人化に関して<前編>

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個人で診療所・クリニックを開業されている先生方は、一度は医療法人化を検討されるのではないでしょうか。
本Blogでは個人開業の診療所・クリニックの医療法人化について、<前編>・<中編>・<後編>に分けて記載していきます。

【医療法人制度の概要】

まず、医療法人の概要について説明していきます。
医療法人とは、病院、医師もしくは歯科医師が常時勤務する診療所又は介護老人保健施設を開設することを目的として、医療法(第39条)の規定に基づき設立される法人です。
医療法(第39条)は、医業経営の主体に法人格を認めることで、①資金調達を容易にし、②医療機関の経営に永続性を確保するとともに、③医療の普及向上を目的として医療法人制度を定めております。
従来は、医療法人の設立には常勤医師が3名以上必要とされていましたが、昭和60年12月の医療法改正により、常勤医師(歯科医師)が一人の診療所でも法人の設立が可能となりました。これが「一人医師医療法人制度」です。
本Blogをご覧頂いている、これから医療法人を検討されている方々については、基本的にはこの「一人医師医療法人」による医療法人の設立になるのではないでしょうか。
また、医療法人の類型としては、医療法人社団や医療法人財団等の様々な類型がありますが、本Blogにおいては、一般的な医療法人社団型を中心に説明を進めていきます。

【医療法人の要件】

次に医療法人の要件について、説明していきます。
 ※下記に示すものは、医療法に基づく一般的な要件となります。
都道府県毎に独自のルールが存在する場合がありますので、実際の設立時には、都道府県のルールを確認しながら進めましょう。
医療法人の要件は、大きく「人的要件」「資産要件」の2種類に分けられます。
① 社員は3名以上いること
② 役員は理事(理事長含む)3名以上、監事1名以上いること(第46条の5)
③ 役員欠格事由に該当しない者でなければならない(第46条の5第5項)
④ 理事長は医師または歯科医師でなければならない(第46条の6)
① 必要な施設を有していること
(診療所の建物が賃貸である場合には、その契約が概ね10年以上であることが望ましい)
② 医療行為に必要な設備・器具の確保
③ 運営に必要な資金(運転資金の2ヶ月分)を確保していること
医療法人の経営は永続性を確保し、安定的であることが求められております。そのため、都道府県によっては開業実績が要件となるケースもあります。診療所開設と同時に医療法人を設立することも不可能ではありませんが、個人での診療所開設後、実績を積んでから法人化するのが医療法人の設立においては一般的なケースと言えるでしょう。

【個人開業の診療所・クリニックと医療法人の違い】

次に、個人開業の診療所・クリニックと医療法人の違いを見ていきましょう。

個人開業
医療法人
①開設者
②資産負債の帰属
③納税義務者
院長個人 医療法人
④税金関係 所得税、住民税、個人事業税
(消費税)
法人:法人税、法人住民税、
法人事業税、(消費税)
個人:所得税、住民税
⑤事業年度 1月1日~12月31日 任意に定めた会計年度
⑥申告期限 翌年3月15日 事業年度終了の日から2ヶ月以内
⑦納税地 診療所の所在地もしくは住所地 主たる事務所の所在地
(医院の所在地)
⑧開設できる診療所数 1ヶ所のみ 分院開設可能
⑨登記 不要 必要
⑩事業報告書の提出 不要 必要
⑪役員報酬 なし
(売上-経費が院長の所得となる)
あり
(1年に1度自由に決定できる)
個人開業の場合は、院長先生個人としての開設となります。医療法人として開設する場合は、法人格を有する医療法人が開設者となります。
個人開業の場合は、資産および負債は院長先生個人に帰属します。医療法人の場合は、資産および負債はすべて医療法人に帰属することになり、院長先生個人の資産負債と明確に区分されます。
個人開業の場合は、院長先生本人が納税義務者となります。医療法人の場合は、医療法人が納税義務者となります。
個人開業の場合は、院長先生本人が納税義務者となります。そのため、個人の確定申告により、税金が課税されます。主たる税金としては、所得税、住民税、個人事業税があり、課税売上高(主に自費関連の売上)が1,000万円を超えると消費税も発生いたします。
医療法人の場合は、医療法人が納税義務者となります。そのため、法人の決算申告により、税金が課税されます。主たる税金としては、法人税、法人住民税、法人事業税があり、課税売上高(主に自費関連の売上)が1,000万円を超えると消費税が発生する点は個人の場合と同様です。
医療法人の場合は、院長先生は役員報酬として報酬を得ることになりますので、法人税等とは別に院長先生個人として所得税、住民税を納付いたします。
個人開業の場合は、他の個人事業主と同様、事業年度は1月1日~12月31日の一年間となります。医療法人の場合は、医療法人として任意に定めた会計年度を事業年度とすることが出来ます。例えば、8月を決算月と選んだ場合は9月1日~8月31日が事業年度となります。
個人開業の場合は、院長先生本人が確定申告として税金関係の申告をすることとなります。そのため、一般の個人事業主の確定申告と同様に翌年3月15日が申告期限となり、申告及び納税を行います。医療法人の場合は、事業年度終了の日から2カ月以内に法人の決算申告及び納税を行います。
個人開業の場合は、診療所の所在地もしくは住所地が納税地となります。医療法人の場合は、主たる事務所の所在地(一般的には、診療所の所在地)が納税地となります。
個人事業主の場合は、開設できる診療所は1ヶ所のみとなります。医療法人の場合は、分院開設が出来ます。管理者の医師さえ確保することが出来れば、診療所を複数開設することも可能です。
個人事業主の場合は、登記は必要ありません。医療法人の場合は、医療法人としての登記を始め、決算毎に純資産の登記や2年に1度役員の登記が必要となります。
個人事業主の場合は、事業報告書の提出は必要ありません。医療法人の場合は、毎年事業年度終了の日から3カ月以内に事業報告書の提出が必要となります。
個人事業主の場合は、院長先生本人には役員報酬や給与の概念はなく、売上から経費を引いたものが院長先生の取り分となります。医療法人の場合は、役員報酬を定め、定められた役員報酬に従い院長先生に報酬を支払います。役員報酬は基本的には1年に1度自由に決定することが出来ます。

【どれだけの診療所が医療法人化しているの?】

では、ここでどれだけの先生方が医療法人化しているかを数値で見ていきましょう。
(R4/10/1 現在)
 医療法人数診療所総数割合
医科診療所45,976105,18243.7%
歯科診療所16,24167,75524.0%

(厚生労働省「 令和4年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」より)
上図より医科診療所においては約4割、歯科診療所においては約2割程度の割合で医療法人化していることがわかりますね。

【なぜ、医療法人化するの?医療法人化はすべきか?】

では、ここから、なぜ医療法人化するのか?もしくは医療法人化はすべきか?という話を見ていきましょう。
医療法人化の要否を検討する先生方には、何かしらの目的意識を持って医療法人化を検討するのではないでしょうか。例えば、法人化して社会的な信用力を得たい、医療法人として分院開設をして拡大していきたい、老人介護保険施設の運営を行いたいなどです。これらの事業目的とは別に、税負担軽減の為に医療法人化を検討する先生方も多いのではないでしょうか。

まず、法人化することにより、個人事業主では出来なかったことをやりたい(分院開設や老人介護保険施設の運営等)先生方については、医療法人化は実施すべきと考えます。明確な目的があり、その目的の達成の為に必要な手段として医療法人化が位置づけられるからです。

一方で、税負担軽減の為に医療法人化を利用したい先生方については、医療法人化について良く検討する必要があります。確かに医療法人化した場合には、個人開業時と比較して税負担が軽減する場合が多いです。しかし、医療法人化した結果、全体としての税負担は軽減したとしても、個人開業時より制約が多くなることにより、医療法人化したことを後悔してしまうような場合もあります。
私は医療専門の税理士として、全ての個人開業医の皆様に一度は法人化の要否を検討して頂くことをお勧めしております。知識がないから、面倒くさいからと言って医療法人化について考えないのではなく、しっかりと検討し・理解した上で医療法人化する・しないを考えて頂けたら幸いです。

税理士法人Lucaでは医療法人化の相談やシミュレーションなども承っております。ご興味のある先生方は是非一度ご連絡下さい。
今回の医療法人化について<前編>のBlogはここまでとなります。次回、<中編>では、医療法人化のメリット・デメリットについてや、モデルケースを用いた医療法人化による税負担軽減の効果などについて記載していきます。
本Blogが皆様の一助となりましたら幸いです。